2012年03月06日

久保俊治「羆撃ち」

久保 俊治
小学館
発売日:2012-02-03

胸にズシッとのしかかるような読後感。

スーパーで食材を買って食べているような生活の中では決して味わえない死と向き合う感覚を重く感じた。


人間は生物である。

生物であるから、他の生物を補食し、自らの糧として生きる。
生きている限りは、常に他の生物の死に包まれている。


しかし、店先に並ぶパッケージには調理しやすい大きさに切り分けられた肉や魚が当たり前のように陳列され、忌避するように死の存在は隠されている。
まるで無機物のように。


違う。

これは違う、と感じる。

本当の生は、死に囲まれている。



本文の中で作者は言う。

“自然の中で生きた者は、すべて死をもって、生きていたときの価値と意味を発揮できるのではないだろうか。”


この世に生まれ出でた者は、死ぬことで、生きていた意味を成す。それは連綿と続いてきた生命の歴史そのものを表す。


“斃された獲物が、生きてきた価値と意味を充分以上に発揮するように、すべてを自分の内に取り入れてやる。自分の生きる糧とするのだ。”


だからこそ、ハンターとして斃した獲物の全てを、余すところなく売る、食べる。


人間は良くも悪くも、社会という一つの枠組みの中で多くの家畜を殺し、食材としている。
そして、なかには食べられることなく廃棄されるものもいる。
それが無性に哀しい。



生きることと死ぬことは同義である。

そんな思いを再確認した。


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