ネオ・スチームパンクの謳い文句で書店に並んでいたこの小説。
でも、ぜんぜんスチームパンクじゃない。
そういうガジェットはほとんど登場しないから、スチームパンクを期待して読むとガッカリするかも。

これはヴィクトリア朝英国を舞台にしたゴシックホラーロマンスと言ってもいいかも。

人間と吸血鬼や人狼といった異界族とが共存する世界に、反異界族として生まれた主人公。まともな生活を過ごせるはずもなく、結婚適齢期を過ぎたオールドミスになり、家族に諦められながら今日も社交界へと顔を出す。

そこに登場するのがマコン卿。
スコットランド生まれの粗野な人狼ではあるが、ウルージ城人狼団のボスで社会的地位のある男。

はぐれ吸血鬼や人狼の失踪事件を追ううちに二人の距離は近づいていくという寸法だ。

しかし、ヴィクトリア朝の道徳観に沿うアレクシアと雌が主導権を握る人狼のしきたりに従うマコン卿が70年代の少女漫画みたいにかみ合わない。
“こんなに好きなのについ意地悪してしまう”的なノリで展開が行ったり来たりするので、読んでる方はやきもきさせられる。

後半はややエロくなるので割愛する。
女性らしい表現ではある。
最後に二人は結ばれるのだ。


さて、肝心なのはここから。
この作品の中で異界族と呼ばれる吸血鬼や人狼がどのように描かれているか。

この作品の歴史としては、まず古典的なホラーの描く世界と同じように人間と異界族がお互いに狩りあう<暗黒時代>があり、その後、異界族の存在が明らかになり、両者が認め合う形で同じ社会を形成しているのが作中の現在である。

異界族は自らの血族と異界族になることを望む人間の従者たちによって吸血群や人狼団と呼ばれるグループを形成し、誰彼かまわず人間を襲うことはしない。もし、そのような事件が起これば秘密操作組織である異界管理局がその事件を取り締まる。

このように吸血鬼が血の繋がりを基にしたグループを築いているところは、アン・ライスのヴァンパイアクロニクルにも描かれている。親子関係がはっきりしていてそれによって権力の差が生まれているのだ。(それをぶっ壊したのが我らがレスタト。吸血鬼のくせにロックンローラーとしてデビューしてしまう跳ねっ返り)。
そして、虚実織り交ぜながら吸血鬼が歴史の表舞台に登場するところは「ドラキュラ紀元」から始まるキム・ニューマンの三部作にすでに描かれているところである。(ただし、こちらは歴史上の人物のほか、小説や映画に描かれた歴史上(?)の架空人物までもがこれでもかと登場するという山田風太郎の明治もの的な作品。)

ブラム・ストーカーの「ドラキュラ」を始めとする初期のホラー作品群では、吸血鬼や人狼に反社会的な性格を持たせていたのに、近年ではこういった傾向が全く見られないのは興味深いことだ。


また、作者が生み出した反異界族という存在がこの作品の肝である。

人間の天敵である異界族、そのさらに天敵となるのがこの反異界族。
反異界族の別名は魂なき者(ソウルレス)。
その身体に触れた異界族は全ての力を失い、人間と同じ状態になる。

太陽に身をさらすことができないはずの吸血鬼が、反異界族の主人公と手を繋ぎながら夕日を見る場面は非常に美しく感じた。


おそらく、この設定が物語の結末に絡むのだろう。
人間と異界族と反異界族、どんな未来が待っているのか楽しみ。




でも、ロマンスがしつこかったので、星は三つだけ。


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